大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所八王子支部 昭和52年(モ)2063号 決定 1978年7月21日

申立人 遠山陽一

〈ほか一一〇名〉

右訴訟代理人弁護士 森川金寿

〈ほか二一七名〉

主文

一、別紙申立人目録記載の申立人らのうち、主文第二項記載の申立人らを除くその余の申立人らに対し、いずれも訴訟上の救助を付与する。

二、申立人井上昭三、同仲村清信、同欠瀬道男、同田中弥一、同前田正藏、同田村政二、同金井和夫、同後藤和枝、同奈良妙子、同大野秀夫、同川村立夫、同鎌田満子、同武田茂、同藤尾仙之助、同鈴木たけ、同金谷十藪、同毛利紀子らの本件各申立を却下する。

理由

一、当庁昭和五一年(ワ)第四〇五号、昭和五二年(ワ)第一三五六号横田基地夜間飛行禁止等請求事件記録によれば、申立人らが本案訴訟において勝訴の見込みがないとはいえないことが一応認められる。

二、次に、申立人らが民事訴訟法第一一八条にいう「訴訟費用ヲ支払フ資力ナキ者」に該当するか否かについて検討する。

1、同条にいう訴訟費用を支払う資力がない者とは、当事者が本案訴訟を追行するうえに必要な費用を支弁するときは本人及びこれと生計を共にする家族にとって通常の生活(勤労者の平均的収入による生活)を維持するのに支障をきたし、そのため右訴訟を追行することが事実上困難になる状態にあるものをいうものと解されるところ、右見地からすれば、右費用のうちには救助の対象となる狭義の裁判費用のみではなく、本案訴訟の性質、内容に照らして予測される事案の調査研究、証拠の収集、弁護士に対する訴訟委任等のために要する諸経費についても、それが訴訟追行上不可避と認められる範囲においては、これを斟酌して判断するのが相当であると解される。

2、そこでこれを本件についてみるに、申立人らは東京都昭島市、福生市、立川市、日野市のいずれかの住民であるところ、総理府統計局の家計調査年報(昭和五一年度版)によれば、人口五万人以上の都市における勤労者の一世帯(人員数三・七五人)当たり年平均一ヵ月の収入と支出は実収入金二六万〇〇九八円、実支出金二〇万七九四三円であることが認められ、右数字からすると世帯員三・七五人の家族の場合において、月別実収入金二〇万七九四三円(年間金二四九万五三一六円)の者は家計に全く余裕がなく、月別実収入金二六万〇〇九八円(年間金三一二万一一七六円)の者は右収入を自己及びその家族の生活費等に費消してなお若干の余剰を生じ、一応世間並の平均的生活程度を維持する資力のある者ということができる。

ところで本件の本案訴訟は、申立人ら横田基地周辺の住民が在日米軍等の航空機による騒音によって著しい精神的肉体的被害、睡眠妨害その他種々の生活妨害を受け、人格権、環境権を侵害されているとして、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」並びに「右協定の実施に伴う民事特別法」に基づき、国に対し夜間の一定時間、横田基地における米軍機の発着及び騒音の差止及び損害賠償を求める訴訟である。従って右本案事件の性質及び内容にかんがみると、それが騒音のもたらす影響の解明等未開拓の分野に及ぶため、同訴訟においては騒音と損害との因果関係、騒音及び損害の状況、程度等の立証につき多くの科学的証拠資料の提出が必要となり、右本案訴訟を追行するのに不可避の前記諸費用は相当高額になるものと予測される。

3、以上の各事情を総合して考慮すると、本件においては、申立人を含め生計を共にする家族が四人以下で、その年間実収入が金三三〇万円に満たない世帯並びに四人を越え、その年間実収入が金四〇〇万円に満たない世帯にあっては、他に特段の資産を有することの資料がない限り、当事者が本案訴訟を追行するに必要な費用を支弁するときは、家族の通常の生活を維持するのに支障をきたす状態にあり、一応訴訟費用を支払う資力がない者に該当するということができるが、自己及び生計を共にする家族の収入が右金額を越える世帯にあっては、他に特段の事情がない限り、右予想される訴訟費用の共同負担に一応耐え得る資力があるものと解するのが相当である。

4、そこで右基準を各申立人に適用すると、本件疎明資料によれば、本件申立人らのうち主文第二項記載の申立人ら以外の者についてはいずれも訴訟費用を支払う資力のない者に該当すると認められるが、主文第二項記載の申立人らについてはその収入が前記の基準額を越えていると認められるか、或いは収入についてなんの疎明資料もなく、資力を欠いていることの認定ができないので、右申立人らについては訴訟救助を付与すべき要件を欠いているものといわざるを得ない。

三、以上のとおりであるから、主文第一項記載の申立人らに対しては訴訟上の救助を付与することとし、主文第二項記載の申立人らの本件申立はこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 後藤文彦 裁判官 鈴木健嗣朗 小磯武男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例